◆『襖』 小説サンプル (曽良君=中学生パートから一部抜粋) ※改行、行間等は実際の印刷物とは異なります
明日から夏服に衣替えの今日は、僕がこの家に引き取られて、初めて貴方に出会い、初めて貴方にふれられた日だ。そういえば芭蕉さんが僕にふれるのはどれくらいぶりだろう? 「……ん……ふ…」 誘うように見上げる瞳に耐えかねて、口づけた。何かを考えるひまもなく、ぬるりとした粘膜が入り込んで呼吸が止まる。返答にとなすり合わせたものはたちまち絡め取られ、後から後から溢れる水を飲み干そうというばかりに喉が動いた。
静かな顔しちゃって。 「貴方の教育の賜物ではないでしょうか」 そんな覚えは無―― あ。
こちらを向こうとした顔に右手を回して、その両目をふさいだ。うなじに口づけ背骨の形をひとつひとつ、確かめる。呼吸に合わせて上下する、そして汗のにおいがするのだと、当たり前のことに感心しながら、極めて原始的な紋様を吸い付けた。
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