◆『襖』 小説サンプル
(曽良君=中学生パートから一部抜粋)
※改行、行間等は実際の印刷物とは異なります


「制服が濡れちゃうよ」
「かまいません…どうせ、しばらく着ませんから」

明日から夏服に衣替えの今日は、僕がこの家に引き取られて、初めて貴方に出会い、初めて貴方にふれられた日だ。そういえば芭蕉さんが僕にふれるのはどれくらいぶりだろう?
いつだって、ほんの微か体温を裾分けされるだけのことで涙ぐんでいた。今もそれは変わらない。ただ、頭を撫でられるより、ずいぶんと息が切れるだけ。

「……ん……ふ…」

誘うように見上げる瞳に耐えかねて、口づけた。何かを考えるひまもなく、ぬるりとした粘膜が入り込んで呼吸が止まる。返答にとなすり合わせたものはたちまち絡め取られ、後から後から溢れる水を飲み干そうというばかりに喉が動いた。


 ―中略―


「君はこういうことに興味のない子だと思ってた」

静かな顔しちゃって。
白い敷布の上にそっと横たえたら、感触を楽しむようにうつ伏せになって転がり、そんなことを口にした。

「貴方の教育の賜物ではないでしょうか」
「私、何か教えた?」

そんな覚えは無―― あ。 こちらを向こうとした顔に右手を回して、その両目をふさいだ。うなじに口づけ背骨の形をひとつひとつ、確かめる。呼吸に合わせて上下する、そして汗のにおいがするのだと、当たり前のことに感心しながら、極めて原始的な紋様を吸い付けた。
乳白色の背にぽつりと浮かぶ欝血、この程度で所有した気になんてならないけれど(「なぁ、もうアンタは俺のものだよ」と言って)心を駈け巡るそれは、明かすべくもなく、陶酔だった。




 ◆『襖』 漫画サンプル



全体に漂う「河合www乙www」感をお楽しみいただければ幸いです。